中国語教育

あるブログで中国語教育について、熱い論争が繰り広げられています。私はその世界の専門家ではないので、つっこんだ議論はできないのですが、中国語教育界(中国語学習界といっていいのか)がいびつだなという気はします。

私のようなレベルでも通訳業界の情報というのはそれなりに入って来ます。通訳になろうという人が最初のターゲットにし、業界への入口にするのが通訳案内士だと思いますが、私の住む北海道は近年アジアからの旅行者が激増し、通訳案内士がまったく足りていません。どこにでもある話で、無資格者の違法ガイドが「横行」しているわけですが、それを取り締まるにも取り締まれない事情があるという話を聞きました。というのは、概算で現在北海道に来る中国語話者の旅行者にすべて有資格ガイドをつけると、北海道に400人のガイドが必要になる、でも今有資格者は70人弱しかいないのだそうです。しかも、その中には資格はとったけど稼働していない人が多数いるので、無資格ガイドや旅行会社を取り締まると、旅行者がほとんど来られなくなってしまうというのです。

そうすると、「旅行者が落とすお金めあてで無資格ガイドを見て見ぬふりするのか」という議論も出ますが、関係者は「ガイドを育成できない中国語教育界のしわ寄せがなぜこっちに来るんだ」と言いたいでしょう。

通訳を使う側にも危機感はあって、さまざまな試みがなされているようですが、ガイドや通訳を育成しようにも、一定以上の語学力をもった学習者が語学学校に通訳クラスが成立するほどいないのです。いつまでも人材が供給されないから、市場は留学生バイトを使わざるをえない、市場が中国人留学生で占拠されているので、日本人は苦労して通訳になろうとは思わない…悪循環です。

通訳育成のために中国語学習があるわけではありませんが、通訳になる人は中国語学習界を通ってきていて、やっぱりつながっているはずです。両者がうまくリンクしていないことが私が感じるいびつさなのかもしれません。

とはいえ、北海道にこんなに中国語圏からの旅行者が殺到するようになったのもわずか10年のできごとで、教育界と通訳業界がうまくリンクしていたとしても、急激な需要の増加に対応できていたかは疑問です。さらに東日本大地震と原発問題で外国人旅行者が9割減という現状を見ると、もし有資格のプロのガイドが大量にいたとしたらどんなに打撃だったか、使ってたのがバイトでよかったというような皮肉な状況もあります。

英語では英語教育と通訳業界がそれなりにうまくリンクしていると思うのですが、それは日本の英語教育の長い歴史と圧倒的な市場の需要と大量の英語学習者によって実現されているのでしょう。北海道ではロシア語通訳の需要が多いのですが、やはり地域性や歴史的な経緯から、非常に小さい市場ながら、学習者と通訳業界とのリンクがうまくできているように思えます(他人の芝生は…かもしれませんが)。ほかの言語の事情をそのまま中国語にあてはめることはやはり難しい。中国語は中国語なりのいい状況を目指していければいいと思います。

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コメント

  1. shrimp より:

    一昨年、10年振りに札幌に帰って、中国人観光客の多さに驚きましたが、そんなにガイドが足りなかったのですね。具体的な数字を見せてもらうと、驚いてしまいます。私も「稼働していない有資格者」で、実は札幌に移住する計画もないわけではないのですが、札幌に戻ってもガイドにはならないと思います。ひとつは適正がない(語学力がない、乗り物酔いがひどいetc)のと、もうひとつは個人的に仕事に魅力を感じていないからでしょうか。私は中国語教師という仕事が大好きなので…。これからcowleyさんたちが先駆者となって、優秀なガイドや通訳がたくさん生まれることを願っています。私としましても、cowleyさんたちがガイドや通訳を育成できるように、その前段階の「一定以上の語学力をもった学習者」を育成していきたいです。

  2. cowley より:

    shrimpさん、こんにちは。
    私も直感としてはガイドや通訳は足りてなさそうだと思ってましたが、しかるべきところの人に具体的数字を見せられてびっくりしました。
    ガイドと通訳は違うと思います。私もガイドとしては1回くらいしか仕事したことありません。楽しいと思わなかったし、これからもやりたいと思いません。でもたいていは一緒にされてしまうし、それにあえて異議を唱える理由もみあたらず、なんとなく一緒くたになってしまいます。
    まあそれが札幌の業界の現状ということも言えるかもしれません。

  3. あまぐり より:

    cowleyさん、こんばんは!先日は当方のブログにコメントを下さり、誠に有難うございました。本題とはずれますが、上京して数カ月、東京はやはり特殊なところ…と思わずにいられません。学習会(ないしスクール)ひとつとっても、札幌であれ地元N市であれ新潟であれ大阪であれ、誰かが素晴らしいパフォーマンスをすれば互いに褒め合っていた(お互い「すごい」と素直に口から感想がもれてくる)のに、東京はそうじゃないんだな…とか。某先生もおっしゃっていましたが、プロの世界でも、関西が和気あいあいとしている(実際、自分もその集まりを見学させて頂いたので間違いないと思います)のに比べ、東京はとにかく「我関せず」、そういう集まり自体が成立しないとのこと。まさに「生き馬の目を抜く」を地でいくような環境。少し前までは地方ならではの事情に悩まされた一方、今度は東京ならではの事情に戸惑っています。要するに、目先のことに惑わされるのは、まだまだ自分が中途半端だからですね。頑張りたいと思います。またブログに遊びに来ますね。

  4. cowley より:

    あまぐりさん、いらっしゃいませ!
    ここ北海道では東京人は「冷たい」とひどく評判が悪いです。北海道人って、お客さんには愛想よくても、よそから来て生活者となる人にはかなり冷たいところがあると思うんですけどね。
    いろんな土地の人が集まり、いろんな価値観がある東京では、お互いに「価値観を共有している」と確認してからでないと、人をほめないんだと思います。へたするとほめてることにならなくなるかもしれないから、簡単にほめない。でもそのへんが「冷たい」と言われちゃうんでしょう。
    逆に、私はちょっとしたことで「すごい」と言われるのは「表面しかみてない」と思ってしまう。ま、イヤなやつです。
    誰にもほめられないことに慣れてしまうのはさびしい。それは東京に慣れたのとは違うと思います。
    ……東京人なので、ちょっと東京をかばっちゃいましたかね。

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