ラッキー

かなり正式な歓迎パーティの仕事。とはいえ正式なあいさつは正式な通訳がやり、私は2人のテーブルスピーチの担当でした。

エージェントにも、主催者にも、原稿は出ないと言われていたし、これまでもフランクなテーブルスピーチで原稿が出たためしはないのであきらめていました。正式な通訳はちゃんと訳さなきゃダメですが、言うことはだいたい決まっています。でもテーブルスピーチはどんな話題が出るか、わかりません。スピーカーの経歴だけはチェックして、あとはぶっつけ本番でやるしかありません。

会場でスタンバイしていると、スピーカーの1人が早めにいらっしゃいました。「通訳を担当します」とごあいさつをし、ついでにダメ元で「どんな話をされるか、もし決めていらっしゃったら教えていただけると助かります」と言うと、「ああそうか。話すこと、メモしてあるんだよね。コピーしてくればよかったなあ」。

欣喜雀躍。会場のスタッフを呼び、コピーをお願いして、本番までの短い間に目を通すことができました。

スピーチは予想どおり、少しユーモアをまじえたもので、途中、私の訳で中国側のお客様がどっと笑ったときには思わず「やった!」と思いました。これも、スピーチメモ(というより、ほぼ原稿だった)をいただけたおかげです。あきらめずに聞いてみてよかった。

もう1人は原稿なし。こちらもユーモアたっぷりのたのしいスピーチでした。実は、今回の中国側のお客様は先日の仕事のお客様と同じ省の方で、先日「うちの省ではこういうんだよ」とあるものの名前を教えてもらっていました。なんと、このスピーチにそれが出てきたのです!

日本側がスピーチでわざわざ話題にするのですから、現地では有名なものに違いない。それはごく普通の単語で、普通話で何と言うかはわかっていたのですが、その教えてもらった言い方で訳しました。中国側のお客様、大喜びで拍手(拍手は通訳にではなく、スピーチの内容に対して、ですけど)。こちらも「やった!」と思いました。

ラッキーが2つも重なり、帰路についても少し興奮していました。それにしても、通訳は貪欲に情報を集めて自分のものにしなければいけないと、改めて痛感しました。

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