くそ度胸をつけましょう

同学から急に「通訳するとき、気をつけることって何ですか」と聞かれました。何だろう、体調を整えることかなあ。でもなぜそんなことを?

聞けば、会社の業務で中国の支社に出張し、通訳をするように言われたそうです。その人は中国語の実力も十分あるし、通訳もうまい。何の問題もないと思ったんですが、実際に通訳した経験が少なく、会社の人が中国人社員と比較して、「ちゃんとできてんの?」みたいなコメントをするので自信がないとのこと。

なんなんでしょう、その人。中国人社員の通訳を聞いていると、日本側の言ってることと違うことを言ってることがあるそうなので、会社の人は中国語もわからないのに、自分がわかる日本語をしゃべる中国人を高く評価してるんですよね。

そういう事情なら、答えはただ一つ。

くそ度胸をつけること。

これはまあいろいろな言い方ができて、「くそ度胸をつける」とも言えるし、「根拠のない自信をもつ」とも言えるし、「自分を信じる」とも言えるし、「自分に暗示をかける」とも言えるし。とにかく「できない」という考えを自分の中から追い出すことです。たぶん通訳者はみんなこれをやってるんじゃないだろうか。

具体的には「できなかったらどうしよう」という考えが浮かびだしたら、急に別のことをするとか、誰かと話すとか、歌を歌うとか、その考えを無理やり消す。メンタルトレーニングみたいなもんです。

通訳をやることが決まってて、その時になったらもうやるしかない。それを積み重ねることで、さらにくそ度胸がつくようになるという好循環が生まれます(のはず)。

ぜったい大丈夫、帰国後のいい報告を待ってます!
 

通訳の地位

通訳に関する記事を続けて読みました。

この記事、手話通訳は民間の通訳者を採用しているとのことですが、事前に情報を与えないのは民間という「よそ者」だからという理屈なんだろうと想像します。仮にあの場に英語通訳者を同席させて新元号を世界に同時発信しようと考え、外務省職員を通訳として使ったとしたら、事前に情報を伝えておかないということは考えられません。

通訳者が守秘義務を遵守していることを信頼していないし、記事にある通り、手話を必要としている人や、そのアクセス権を保障する手話通訳者を軽視しています。

間違えた通訳者には気の毒ですが、これが問題になったことはよかったことだと思いたいです。

www.msn.com
 
外国人増加の時代に法廷通訳の登録者が減る理由とは
https://www.msn.com/ja-jp/news/national/%E5%A4%96%E5%9B%BD%E4%BA%BA%E5%A2%97%E5%8A%A0%E3%81%AE%E6%99%82%E4%BB%A3%E3%81%AB%E6%B3%95%E5%BB%B7%E9%80%9A%E8%A8%B3%E3%81%AE%E7%99%BB%E9%8C%B2%E8%80%85%E3%81%8C%E6%B8%9B%E3%82%8B%E7%90%86%E7%94%B1%E3%81%A8%E3%81%AF/ar-BBVFibQ
外国人労働者受け入れ拡大の新制度導入などが進む中、あまり知られていないことがある。日本語が通じない外国人が被告となる裁判で欠かせない法廷通訳の問題だ。最高裁の集計によると、通訳が必要になる公判が増える一方、法廷通訳の候補者名簿に登録された人数は減...

こちらに関しては、法廷通訳をしている友人から聞いていました。

その場での発言を訳すのではなくて、判決言い渡しや、事前に関係者にわたっている資料の読み上げなどはその資料が渡され、日本側が読み上げるのと同時にそれを「通訳」する方式に変わったのだそうです。要するに、渡された資料を訳しておいて、それを日本側の声にかぶせて読み上げるのです。

法廷通訳は勤務した時間で報酬が払われるので、こうすれば「読み上げを聞く+訳す」の勤務時間を半分に減らすことができます。

事前に渡される資料の翻訳に対する報酬はありません。それはあくまで通訳に便利なように資料を提供するだけであって、それを訳して読み上げろとは言われていないからです。事前に翻訳しておかず、その場でサイトラしたっていいわけです。

だけど、通訳者で事前に渡された資料を訳しておかない人なんていません。まして法廷通訳という重要な仕事なんです。

札幌にいた頃、弁護士会に登録して接見通訳をやっていましたが、年に1度、登録通訳者の勉強会が開催されていました。弁護士の中に外国人の犯罪や裁判の改善に熱心に取り組んでいるグループがあったのです。

そこでコミュニティ通訳の研究者や弁護士の先生から話を聞く機会がありましたが、一般的な法曹関係者の通訳に対する認識の低さにほんとうに驚いた記憶があります。

そもそも法廷通訳者に採用試験が課されないというのが不思議です。「お金は払うから、誰かやってよ」という態度にしか思えません。

さらに言えば、法曹関係はお金が出るからまだまし。医療関係は「治療を受けたいなら自分で通訳連れてきて、こっちは通訳にお金なんて出せない」です。私も医療通訳グループに少し縁がありますが、ほんとうにみんな身銭を切って通訳をやっているのです。

外国人労働者の受け入れに関して「どれくらい日本語が話せればいいか」ばかりが問題になっていますが、日本側の態勢はどうなのでしょうか。

同時通訳者のここだけの話

 
同時通訳者のここだけの話
関根マイク (著)

私のようなはしくれの通訳でも「あるある」と思う箇所がけっこうあって、おもしろかった。
とはいえ、通訳をやっていない人、通訳に興味がない人にとっておもしろい本なのかな。たいへんだなとは思っても、共感することはできないように思う。かなり読者を選ぶ本。

沖縄でキャリアをスタートした後、東京に拠点を移した著者は、東京で改めて1からキャリアを積む必要があったと書いてあるが、やっぱりそうなんだね。私も東京に戻ってから、幸いまったく1からではなかったけど、やはり改めてキャリアを積まなきゃならないのかと感じることがある。

正直、それがしんどい。通訳という仕事は好きだけど、私には縁のない仕事だったのかなあと思うようになった。依頼をくれるエージェントが東京にもあるので、今ここできっぱりやめるというわけではないけど。

こういう本を読んで「あるある」と思えるくらいのキャリアは積めて、よかった。

展示会の仕事

1月2月はシーズンなんでしょうか。たてつづけに展示会の仕事をしました。「バイリンガルスタッフ」という名前ですが、実際にはいろいろな仕事がありました。

展示会の仕事は以前にもやったことがあります。企業ブースを1つ割り当てられ、来たお客様に商品の紹介をしたり、質問に答えたりするときの通訳をするのが基本。事前に担当企業を聞いてホームページを確認し、主力商品や当日出展される商品の情報があれば説明に使いそうな単語をリストアップして準備します。

でもそこから先、当日の様子はいろいろです。たとえば今回いくつかやった展示会のうち、1つは完全に「販売員」でした。扱っているものが大量生産品ではなく、1点ものだったので、必然的にそうなりますね。金額交渉やお金のやりとり、商品に対する細かい質問が多く、気疲れしました。

別の展示会は完全に企業の周知と製品の紹介だけ。会社の所在地とか、対応できる業務の範囲とかが多かったです。ただ、製品は専門的なものだったので事前勉強がけっこう大変でした。

スタッフへの待遇もいろいろ。完全に立ちっぱなしのところもあれば、「人がいなかったら座って休んでね」と言われることもあれば、勝手に座っちゃっても気にしない会社もある。お昼休みもブースに人がいなくならないよう、1人ずつ時間を管理する会社もあれば、午後3時すぎてもお昼休みの声がかからない会社もある。あとでわかったのですが、自分で様子を見ながら勝手に行けばいいので、声をかけなかったらしい。最初に言ってよ。

もう1つ。ある展示会で、できる外国語を書いたカードを胸につけたんですが、たいていはそんなものはありません。こっちで中国語圏らしい人を判断して声をかけるのですが、なぜか中国語で声をかけると機嫌が悪くなって英語で返してくるお客様もいて、なかなか難しいなあ…と思っていたのですが、ふと思い出して、以前札幌商工会議所でもらった「語学バッジ」をつけてみることにしました。

 

小さいですし、バッジばかり気にしている人もいないので、てきめんというわけではないですが、声をかけたら顔とこのバッジを見て「中国語できるの」と言ってくれたお客様がいました。思いつきでつけてみた結果はまあまあです。

調べてみると、「外国語話せますバッジ」って市販されているんですね。これは「SAPPORO」と入っちゃってるので、市販のを買ってもいいかなと思ったんですが、中国の国旗がついていてNG。中国語を話すのは中国の人だけじゃないので。

服装も準備のうち

ウインタースポーツの通訳をやりました。しかも、屋外競技。

通訳は1に準備、2に準備ですが、今回の仕事では服装も準備のうち、しかも最優先事項。

当日の服装は、上半身・下半身ともにヒートテックの2枚重ね。上はその上にセーターとフリースとコート。下はふつうのパンツの上にだんなから借りたオーバーパンツ。靴下も当然2足、そのうち1足はウールのハイソックス。あとはネックウォーマーと手袋。声が聞こえないと困るので帽子と耳当てはしなかったんですが、あまりにも寒かったらしないわけにいかないですね。

何よりもありがたかったのは「使い捨てカイロ」。特に靴下2枚の間、足の甲に貼り、さらに中敷き型を靴に入れて、足を上下からカイロではさむ状態にしたところ、ほとんど寒さを感じなかったんです! 足があったかいと体もあったかいってホントですね。

途中ホワイトアウトかというほどものすごく雪が降ったりしましたが、おかげで集中力を保つことができました。よかった。今、私の中では使い捨てカイロが人類最大の発明品の位置づけです!

これまでにもあまりありえない場所に行って通訳することがたびたびありましたが、通訳に専念するために、服装もすごく重要だということを改めて痛感しました。服にもお金かけましょう。

冬のスポーツ勉強中

来年2月、札幌で冬季アジア大会が開催されます。通訳としてお仕事をさせていただくために、スポーツ用語を勉強中なのですが、単語だけ覚えるのでは何のことだかわからないと思うので、ルールから勉強しよう!ということで本を探しました。

 
観るまえに読む大修館スポーツルール2016
大修館書店編集部 (編集)


詳しい方がいいには決まっていますが、そうすると競技ごとの分冊になってしまい、読み切れない気がする。これは競技の概要やルール、用語の説明などがコンパクトにまとめられているのではないかと期待して買いました。ネット注文なので来るのが待ち遠しい。

この本で概要をつかんだら、用語はこの本とネットで調べます。

 
日中スポーツ語辞典
中国吉林師範大学体育系 (編さん)


これは通訳になってすぐの頃、いつかスポーツの通訳をやりたい!と思って買った本。発行は1981年です。用語が古くなっているものもあるとは思いますが、基本的なことはわかるでしょう。
それにしてもあの頃はこんなマニアックでお高い(当時3800円)中国語関連本を出しても売れるほど、日中関係が良好だったんですね。

ところで、夏のオリンピック種目だったら、こんないい本があります。

 
奥林匹克运动会竞赛项目图览 (中国語)
多林金德斯利有限公司 (作者), 韩冰等 (译者)


北京オリンピックの前に出された本だと思いますが、オリンピック各種目の競技のやり方やルールや用具など、すべて図解で説明してあり、ものすごくわかりやすい。この冬季オリンピックバージョンがないか探したのですが、ありませんでした。

2022年の北京冬季オリンピックの前には出るかもしれませんね。もう遅いけど。

終わりました

2日目の通訳も終了。予定変更が重なり、2日目は10時~18時の業務になってしまいました。さすがに最後は頭がジンジンしました。

そんな状態の最後の単元。

話題になったのはアメリカから導入中の新しい考え方やシステム(いくつかある)で、その名前を日本ではすべてアルファベット3~4文字で表現しています。その単元だけ事前に資料を出していただけなかったので、「○○○(アルファベット3文字)」について話すそうです、という情報だけを頼りに調べたんですが、日本でもごく一部で試験的に取り組んでいるもので、日本のサイトでも中国のサイトでもほとんど記載がなく、かろうじて仮訳のような中国語を拾うくらいしかできませんでした。

さて、通訳。「○○○(アルファベット)」と言っても、仮訳の中国語を言っても通じません。中国の方、ぽかーんとしている。その時話者の方、省略された「○○○」の元の英語を蕩々と言って、「さっ、訳して」と言わんばかりに目で合図してきました。いや、その英語の訳(仮訳)だったらすでに中国語で言ってるし、それで通じてないし、そもそも私は英語の通訳じゃないし!

私の中国語が通じないと(というより、中国の方は初めて聞く内容だから知らないだけなんだけど)、それを今度は英語で説明し、その英語を私に訳させようとする。そんなことが数回ありました。よほど英語に自信がおありか、英語なら通じるはずだという信念がある方なのでしょうか。結局のところ、その新しい考え方やシステムを紹介するための話だったので、最終的にどんなものかはわかってもらえたのですが、すごくやりにくかったです。

英語がわからなかったわけではないのですが、英語を訳すのは私の仕事ではありません。外国語と外国語を行き来するのはものすごく負担です。簡単なものだからいいかと訳し、どんどん難しい英語になっていってわからなくなったら、かえって迷惑をかけます。プライベートな会話ならともかく、正式な通訳では英語は訳しません。

以前の仕事で、中国からの学生を引率し、日本のある学者の講演を聞きに行ったことがあります。講演の通訳は別の方がされていたので、私はのんびり聞いているだけでした。講演が終わって質疑応答になった時、ある学生が英語で質問をしたのです。講師の方はわかったはずですが、あえて通訳者に「訳されますか?」と聞きました。通訳者は中国語で「今の質問はこれこれ、こういう内容で間違いありませんね」と確認しました(ということは、通訳者は英語がわかっていたのです。でも英語から日本語へ直接訳すことはしませんでした)。そして中国語で確認した内容を日本語に訳し、講師は日本語で答え、通訳者は中国語に訳しました。きちんとした対応だなあと思いました。

学生は日本の学者と英語でやりとりする!と意気込んでいたのでしょうか。今回の通訳で、この時のことを思い出しました。日中の通訳がいて通訳を通してやりとりすることが前提の場面でほかの言語を使うのは、たとえ英語であってもルール違反じゃないんでしょうか。なぜ英語ならいいと思うんでしょうね。