実習生が

恐れていたことが起こってしまった。教育実習生の授業がはじまったのだ。

しかも、精読。精読の先生は私がここでいちばんいいと思う女の先生で、その授業が減らされるのは正直大損だ。

授業前に同じ班の男の子と「あの先生の代わりをするっていうのはきついだろうね」と話していたのだが、案の定ぜんぜん授業のレベルが違う。

今日は新出単語の勉強だ。単語を読ませ、重要な語の解説をするという授業のやり方そのものは先生と同じだが(いつも後ろで見ているから当然そうなるだろう)、なぜか全然勉強にならない。実習生が一所懸命話せば話すほど学生の反応は鈍り、私は最後のほうはなんだか泣きたくなってしまった。

以前、教授法に関するある本で先生の使ってはいけない言葉として「わかりましたか」というのがあがっていた。「わかりましたか」と言われるとたいていの生徒はわかっていなくても「わかりました」と言う、それよりもわかっているかどうかを確認する別の質問をしろ、と書いてあった。その時はふーんと思ったのだが、今日はその意味がよくわかった。

実習生は何かを解説すると、必ず「わかったか」ときくのだ。1回それに気づくとあとはもうそればかりが耳につく。こっちも予習してきているので、皆目わからない語はない。だから「わかりました」と答える。でも実際には自分で辞書をひいてわかった以上のことは何もわかってない。これでは自習と同じである。

そういえば、先生は「わかったか」ときくことはまずない。1つの語について「これと似た意味の語を知ってるか」「じゃあこの2つはどう違うのか」「使う対象が違うのか、語法が違うのか、程度が違うのか」「例えばどんな文の中でこの語は使われるか」「この語をこっちの語に代えてもOKか」というふうにきいてくる。ほとんど学生に言わせているので、先生は「実は私は楽してるのよ」と言っているが、学生がどんな答えをしてもそれをうまく正解まで誘導できる能力がなければならないし、この間に学生の勉強することはものすごく多い。やっぱりすごい先生だ。

しかし、先生のすごさがわかっても今はどうしようもない。実習生の授業はあと数回はあるだろう。次はもう休んでしまおうかと思ったが、さすがにそんな大人気ないことはできない。廊下に出ると実習生が「私の授業どうだった」ときいてきた。彼女も必死なのだ。「うん、よくわかったよ、だいじょうぶ」と言ったらほっとしたようだった。がんばって、将来はあの先生みたいになるんだよ。

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