チャイニーズ・タイプライター

こんな本読んだ
考えてみれば、漢字をタイプするのは簡単な作業ではない。和文タイプの存在を知っていたので、中国語タイプも同じようにあると思っていたが、ひらがな・カタカナ・常用漢字と、日常的に使う文字がある程度絞られている日本語と比べ、中国語は事情がまったく違う。
中国語(漢字)にはそれを並べる基準がない、という指摘には虚を突かれた気がした。当然漢字にも「音」はあるわけだが、その音を表す文字がない。音節の研究はされていたのだから、反切とか考えるより、何か音を表す文字を考えた方が早かったんじゃないのかとさえ思う。そう思うと、五十音は素晴らしい。(これについては、馬渕和夫『五十音図の話』大修館書店(1993)が参考になる。)
漢字をそのままタイプするか、部品に分けるかの葛藤部分はあまり面白いと思えなかった。清書という目的があるのであれば、部品を組み合わせて作る漢字の不格好さは話にならない。漢字の数の膨大さを前にすれば、省力化を考えるのは当然なのだが。あと、もうちょっと技術的な説明がほしかった。資料の限界があるのかもしれないが、結局どういうシステムのタイプライターなのかがイメージしにくい。
現代に入り、最終的に中国語タイプライターには日本が大きく関わった。現代中国にとって、どこを見ても日本の影響のないところはないのかもしれない。
このへんからの話が私にとっては面白かった。特に最後の方で、タイピストたちが活字の配列を工夫するあたり。和文タイプがまだ現役だった頃、すり減った活字を取り替える業者がいて、一番よく減る活字はひらがなの「の」だと聞いたことがある。シャーロック・ホームズの『踊る人形』では一番多く出てくる人形は「e」だと推理する。英語で一番使う字だからだ。中国語タイプではどうだったんだろう。こういう職人ならではの裏話みたいなのが好きなので、中国語タイピストが工夫して活字を並べ替えるところは面白く読んだ。結局、道具は使う人にとって使いやすくすることで成長し、変化していくのだ。
それから、そこに定番化した共産党のレトリックが関わっているというところ、ちょっとにやり。共産党のレトリックが定番化しているのは、今も同じ。
思いもかけなかったテーマを緻密に調べて書き上げている。ただ、文がいちいちまわりくどい。この人の論述のくせなのか、アメリカ人の文の特徴なのか、訳文のせいなのかはわからない。内容はすごく面白かったが、読みやすいとは思えなかった。
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