しょぼいネタで這いずって書く!

エッセイ

ダメだ。いよいよ書けなくなった。

ライティング・ゼミの課題のことである。これで課題提出が5回目になり、だんだん書き方がわかってきているつもりなのだが、わかってきたからこそ、逆に自分にダメ出しするようになってしまった。

ネタ探しは毎日している。完全に怪しい人になって、すれ違う人を観察し、街中のあれこれを凝視し、地下鉄の中の会話に聞き耳を立てる。

努力の甲斐あって、それなりに書けそうかなと思うネタが見つかる。よし、これで書けそうだ。見つけたネタはまばゆい光を放つ宝石となって、目の前を浮遊する。

出だしをどうしようかなとか、こんなフレーズを入れたらどうかなとか、断片的なアイデアが浮かんで、ますます書ける気がしてくる。さあ、帰って仕上げよう。

ところが、いざストーリーを組み立ててみると、あるいは勇んで書き始めてみると、あれだけ輝いていたネタは突如として光を失い、みるみるうちに干からびてしまう。私が見つけたのは凡人かつ俗物的なネタにすぎなかったのだ。

あれっ、こんなもんだったっけ。もうちょっといい文章になりそうだったんだけどなあ。通りすがりに見た花がきれいだったとか、ふと夜空を見上げてみたとか。こういうネタは何も語らないのか。ただ見えるまま、聞こえるままの環境映像にすぎなかったのか。

そう思ってしまうと、自分で自分にダメ出しするしかない。こんなのじゃ、がんばって書いたとしても、500字くらいにしかならない。まとまったボリュームにするには、それなりの深みと奥行きと裏のある極上ネタを見つけなきゃダメなんだ。

こうして、ライティングがどんなものなのかがわかってきたからこそ、自分の文章にダメ出しをすることが増えた。ライティング、全然上達していないじゃない。

昔の文豪なら「ダメじゃあ!」と雄たけびを上げながら原稿用紙を破り捨てるところだが、私は粛々とワードファイルを消去するだけ。それもわびしい。

もう今回は、課題提出をさぼってしまおう。だっていいネタないんだもん。書けないんだもん。次回、改めてじっくりネタ探しをすることにして、パソコンを閉じる。

しかし提出日になると、やっぱり罪悪感があってさぼってしまうことができない。なんとか自分を励ましつつパソコンを開き、2日前に書いた原稿を思い出しつつ再現してみる。

どうしてもダメかな、文章1本にはならないかな。いいネタじゃないけど、なんとかでっち上げられないかな。

そこからは500字しか書けなかったしょぼいネタとの対話、そのしょぼいネタで短い文章しか書けなかった自分との対話になっていく。

行の中に投げ出された私の心情の表面を1枚めくってみる。自分に聞いてみる。自分に反抗してみる。自分に同情してみる。

そのやりとりを言葉にしていくのも簡単ではない。踏み込みが足りないと、同じ言葉を何度も使う。焦っているのである。少し書くと止まってしまう。書くことに嫌気がさしているのである。

そんなことを繰り返しながら、止まりながら、後戻りしながら、それでも書いていると、不思議なもので、少しずつ、文章に栄養がいきわたってくる。ダメだと思っていた文章をよみがえらせることができるのかもしれない。曇ってしまった宝石を、また少しずつ磨いている気がする。

そのうち、なんとか形が見えてくる。不安だから何度も読み返して、もう少し読みやすくならないかなとか、こんなフレーズも足せるなとか、いつまでもぐずぐずいじっている。

いじりすぎて、何を書きたかったのかわからなくなる。いかんいかん、メッセージがぶれるのが一番ダメじゃないか、と大幅に書き直す。

この頃にはもうすっかり書くことに没頭していて、ネタのしょぼさは、さほど気にならなくなってしまっている。これがライティングの魔法なのだろうか。

いいネタが転がっていないから書けないのではない。道端の花がきれいなどという凡人で俗物的なネタからでも、自分の心の中に入り込める人、時空を超えられる人、事実に対する立ち位置を変えられる人はいる。

ライティングって、たとえしょぼくても、いったんはいいと思って拾ったネタを、どう料理するかという過程なのだろう。それは言い換えれば、そのネタを拾った自分をどれだけ切り刻めるかということだと思う。

書き始めたら一気に書き上げられるようなネタが見つかればいい。でもそういうのが読むに堪えるいいネタとも限らない。ただ単に、自分がよく知っている分野だからさくっと書けちゃっただけかもしれない。

往生際を悪くして、よくあるネタだなあと少しあきらめながら、締め切りギリギリまで粘り、いつのまにか自分へのダメ出しを忘れるのが、私のライティングである。

(初出:「天狼院書店 メディアグランプリ」2025年4月24日 しょぼいネタで這いずって書く!

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